越中文学「河原の対面」(小寺菊子)!

越中文学「河原の対面」(小寺菊子)!

父との悲しい再会

富山県富山市の中心を流れる松川、春には桜が咲き誇り、大勢の人でにぎわう名所だが、その一角に、ひっそりと立つ古びた石の燭台に、目を留める人は少ない。

かつての神通川にかかっていた浮き橋「船橋」の常夜灯だ。神通川は明治のころまでは、湾曲して松川あたりを流れていた。六十四艘もの舟を鎖でつなぎ、旅人を渡したのが船橋だった。その優美な風景は歌川広重の浮世絵に描かれ、幕末には高杉晋作ら志士も渡った。

常夜灯は夜間、両岸から船橋を照らしていたといい、今も同市丸の内の松川べりと、二百メートルはど離れた舟橋北町の道沿いに一基ずつが立っている。

舟橋は明治十五年、より安全な木橋に架け替えられて役目を終えたが、この橋にまつわる悲しい物語が残っている。小寺菊子が大正四年に発表した「河原の対面」だ。

小寺は明治の自然主義文学全盛の時流に乗り、女性作家がまだ少なかったこともあって注目を集めた。この小説は、主人公の少女「お町」の視点で、お町の父が招いた一家の悲劇を追う。湿り気を帯びた北陸の自然の移ろいや、七夕流しなどの風習、仏教信仰に深く根差した家の風景を重ねて描いている。

この後は、続きを見て下さい。お町の父「為造」は以前、投機的な事業に手を出して失敗し、金貸しとなって非情な取立てをしていた。「血も涙も持たない、一個の守銭奴」と化した父に、お町は嫌悪を抱く、早春のある日、事件が起きた。為造が負債者とトラブルを起こし、捕まってしまうのだ。

お町が父を再び見るのは、晩秋。母と祖母に連れられて橋まで来た。

「街端れの大川に長い長い橋がかかっていた。昔は船をつないでその上を板を並べて、わずかに人を通していた、と云うので、その橋は今でもやっぱり「船橋」と呼ばれていた。お町等はしばらくその橋の上に立って、広々とした静かな四辺の秋色を眺めていいた」

橋の下、河原で砂を運ぶ作業に従事する服役囚の中に、為造がいた。

お町と父と、無言の悲しい再会を果たす。やがて、母は河原へ下り、監視のすきを見て大福もちを砂山に埋める。それを拾い、ほうばる父、お町はいとおしさと憎しみに引き裂かれ、「父を失ったような気」になる---。

小説「河原の対面」は小寺の自伝的作品だ。小寺が少女のとき、父が何らかの犯罪にかかわっている。一家は崩壊し、小寺はいとこを頼って上京した。苦労しながらさまざまな作品を書くが、父が亡くなると一家が上京したため、家族の生活まで小寺の肩にのしかかった。

故郷に複雑な思いを抱き続けた小寺だが、知人の岡本かの子は、粘り強さや思索の深さがいかにも北陸的と評した。小寺の随想集「美しき人生」に序文を寄せ、「北陸的郷土のローカルカラーを確実に保持しながら、一方都会的な趣味を愛し---」と紹介している。心の傷と分かちがたく結び付いた風土の記憶を糧に、人間を深く見つめ、作家としてたくましく成長したのではないか。

富山が生んだ女性作家の元祖的存在に「今こそ光を当てるべき」と、富山大人文学部の金子教授は言う。「小寺は、女性が現実の中で直面した苦悩や貧困を描きました。少女小説の分野でも、新たな道を開くなど活躍しています。筆力があるのに、暗い、救いがないといった作風への一部の批判や、女流作家を人柄で論じる偏った見方が、正当な評価を妨げてきたのではないでしょうか」

県内の文学ファンでつくる「文学に親しむ会」が四月から一年間、金子教授を講師に招き、小寺の作品を読む。油谷さんは「作品の魅力を味わい、生き方も学びたい」と期待を込める。
(3月3日 北日本新聞より)

小寺菊子
明治十二年、富山町旅籠町(現富山市)生まれ、旧姓居島、本名キク。17歳で上京し、タイピストや記者として働く。県人作家、三島霜川の紹介で徳田秋声に師事。少女雑誌「少女界」「少女の友」や「女子文壇」に作品を発表した。

明治44年、「父の罪」が大阪朝日新聞の懸賞小説に入選。作家の地位を確立し、岡田八千代、田村とし子とともに「大正の三閨秀」と呼ばれた。自然主義的作風で、少女時代や職業婦人としての体験を投影したものが多い。平塚らいてうらの「青鞜」にも書いた。主な作品に「朱蝋燭の灯影」「哀しき祖母」「父の帰宅」「念仏の家」など、昭和31年、77歳で死去。


富山の中心に、船橋があったとはね!。
浮世絵にこんな船橋の絵があったと思います。こんな光景が現在にあれば、風情があって良いですね。
タグ:越中文学
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小寺菊子のこと
Excerpt:  数日前、夕食前のひと時、テレビを見ていたら、郷土(富山)の文学(作家)特集があ
Weblog: 壺中山紫庵
Tracked: 2009-04-10 00:53